須田桃子著「捏造の科学者 STAP細胞事件」
これ、最近読んだ本の中で抜群に面白かった。同業者の方には特にお薦め。
須田氏は毎日新聞の科学系専門記者。STAP細胞の会見前、笹井氏から「絶対に来るべきだ」とメールを受け取ったことから始まり、時系列を追って進むルポ。取材の内容、会見でのやり取りなどが淡々と記されているのに、展開にドキドキする。
STAP細胞の内容が解禁された日(2014年1月29日組)、私は整理部の内政面デスクだった。「弱酸性溶液でストレスを与えると万能才能になる」と言われても「んじゃ、酢を手にこぼしたら万能細胞ができるんかいな?」と懐疑的だった。まあ、科学の世界は難しいのう…。
本記は1面、社会面では長尺の読み物が第3社会面に1本だけ。翌朝の各紙を見ると、どこも紙幅をさいての大展開で、ワイドショーもかなりの扱い。あらまあ、日本で一番、扱いの小さい新聞だったんじゃないかしら。あの日の思い出は2014年1月29日の日記や2014年1月30日の日記を読むと、ほんの少しだけ触れている。まだ1年ちょっと前のことなのに、ずいぶんと昔のことのように思える。
この本は、ちょうど先週発表になった日本科学技術ジャーナリスト会議の大賞を受賞した。この手の書籍は、新聞連載を加筆修正して作り上げるものが多いが、この本は取材当時、オフレコだったことをあらためて振り返り、今だからこそ、あの時はこうだった、という話が頻繁に出てくる。これが面白い。ネタは持っていたがNHKに先を越された、自分の記事が1面を飾ったという表現が頻繁に出てくるが、淡々とした文体から、自慢話ではないということがよく分かる。
ご自身も早稲田大大学院理工学研究科修士課程修了(物理学専攻)だそうだ。研究者の心理が分かる専門記者。もし、この事件を社会部記者が追ったなら、全く違う本にまとまっただろう。
かなり平易に書いてあるとはいえ、専門的な言葉が出てくるので、やや難解な部分も。そこを含めて、ぜひ読んだ方がいい一冊。
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